2012年11月4日日曜日

渓谷を行く


 陽光が葉に受けとめられる。透明な光は葉を通過すると、色彩をおびる。無限とも思えるほど膨大な数の葉が風に揺れている。色彩の波が瞳孔に押し寄せてくる。
 赤や黄に染まった光をふりまくたくさんの葉。その向こうでエメラルドグリーンの清流が音もなく流れている。

 
 山道を歩いているとリスに出会う。木の実を食べている。全くこちらを警戒していない。手が届くほどの距離から、じっとこちらを眺めながら口を動かしている。
 
 風が吹き、光を蓄えたままの葉が次から次へと舞い降りてくる。青い空が赤や黄の光に染まる。散りゆくたくさんの葉を縫いながら鳥達が飛んでいく。鳥の鳴き声と葉が触れあう音が編み込まれてゆく。色彩の波と音の響きに、瞳孔と鼓膜が洗われる。
 
 
 韓国、チリ山の渓谷を歩く。一日目はカン先生と二人で山の中の小さな村々を訪ねる。二日目はカン先生の友人達と総勢11名で渓流沿いの山道を上流へと歩いて行く。
 みんな夫婦で参加している。誰もが私よりも年上だが、みんな気さくで温かい人たちであった。職業は教員かエンジニア。

 一人は新潟に7年暮らした経験がある人で、日本語が堪能であった。その人は私に言った。「私は韓国の自然が本当に好きなんです。あなたもここにいる間に、いろいろなところへ行ってみて下さい。」
 その人はとても穏やかな風貌をしていたが、体全体から意思の強さが感じられた。メンバーの誰もがその人に一目置いているのを感じた。
 
 
「おまえは体力がないからなぁ。とにかく山道を最低5時間、休みなく歩き続けることできる体を作っておけ。それだけだ。分かったな?」数週間前にカン先生からそう言われていた。
 
 カン先生の言葉は事実だ。あの人の体力は圧倒的だ。そして気持ちも前向きで力が溢れている。だからあの人に何を言われても腹は立たない。自分をはるかに凌駕する者からの言葉というのは、素直に謙虚な気持ちになって聞くことができる。

 私はそれから朝の散歩に加えて夕方にも、アパートの近くの川沿いの道を大股でスピードを出して歩くようになった。そして筋トレもして、少しずつ体を作っておいた。

 
 トレッキングシューズと靴下を脱ぎ、清流に足を浸す。思わず声が出てしまう。それほど冷たい。
 
 枝を離れた葉が次から次へと流れる水の上に落ちてくる。その葉陰が水底に映っている。
 
 斜めからさす陽光が、流れる水の形を鮮明にする。
 
 水は大小様々な岩や石を優しく包み込むように流れていた。
 本当に強い人というのは、この流れる水のような人かもしれない。そんなことをふと思った。




4 件のコメント:

末っ子 さんのコメント...

お久しぶりです!
ご心配おかけしましたが、私は元気です☆
blogも再開したので、また見てくださいね。

きれいな景色ですね。
オーストラリアの壮大な景色もいいですが、韓国の情緒あふれる景色も本当にステキ☆

あっという間に11月。
カウントダウンが始まっています。
いろんなところでいろんな景色を見てきてください!

健父 さんのコメント...

ブログ毎日見ていましたよ。
ずっと更新されていなかったので心配しました。

それでも「便りのないのは・・・」と言うから、元気でやっていると信じておりました。
一時帰国でもしているのかなぁ~と。

あ~ホント11月ですねぇ。
まぁ、これからまだまだいろいろなことがあるんだろうけど・・・。

お互い健康にやっていきましょう。
他のREXメンバーにもよろしく。

やまだ さんのコメント...

ホリオから「他のREXメンバー」として呼ばれて出てきました。
じゃじゃじゃじゃーんヽ(^。^)ノ

元気です。
猛暑です。
直径が車で10分範囲の町です。
一番近い都市はホリオのところです。
飛行機で2時間です。遠いです。

まだ春なのに40度です。
こてんぱんカレーパンあんぱんです。

どろん。

健父 さんのコメント...

ヤマダさん。元気そうですね。

40度って、本当ですか?
タクラマカン砂漠か、乾期のカルカッタのようなところですね。

やっぱりオーストラリアは広いですなぁ。

こちら朝鮮半島はいよいよ寒さが増してきました。私は半島の南の方に暮らしているのですが、今日とうとうオンドルのスイッチを入れました。

冬の扉がもう少し開きかけています。

体だけは大切にね。
いつかの乾杯を楽しみにしております。