うーむすごい。思わず唸ってしまった。この間文化祭が行われたのだが、生徒達はなかなかやる。勉強のときは元気のない生徒達だが、行事は燃えるようだ。まぁ自分たちの高校時代とほとんど変わらない。勉強は嫌いで学校行事や部活は大好きというところが。
クラスは入学時の成績のいい者、よくなかった者がかためられている。クラス替えはしない。キム先生もイ先生も「このクラス編成は良くない。」と言っていたが同感である。
成績の良いものがかためられているクラスはみなとても意欲的でクラスの雰囲気もよく、いつも授業は楽しく和やかな雰囲気で行われる。日本語の定着もとても良い。質問も挨拶もとても良くする。キム先生はよく出張が入り、その時は一人で授業をするのだが、生徒はいろいろと協力してくれる。日本語、韓国語、英語を交えながら授業を進めるのだが生徒が温かく授業に参加してくれるため笑顔のまま授業を終えることができる。
だが一方、成績の良くないものがかためられているクラスにはイ先生と一緒に行くのだがなかなか大変である。そのクラスは3人退学し今27人の在籍なのだがいつも5人以上欠席していたり校外に出てしまっていない。このあいだ文化祭前の授業では半分くらいの生徒がいなかった。
この学年だけではないのだが、授業中学校を抜け出しインターネットカフェに行ってゲームをしていたり、路地裏で集団でタバコを吸っているものがいるのだ。地域からも苦情が入ったため、「生徒を校外に出さないように徹底すること。」という伝達が何度かあった。タバコはかなり問題になっていて「3年生のトイレがタバコの大量の吸い殻のため詰まってしまった。」などのメールがよく入ってくる。
毎回熟睡していて全く起きない生徒がこのクラスには何人かいる。この生徒たちは他の授業もずっと寝ている。本当に死んだように熟睡している。生活リズムが完全に逆転していて、昼学校で寝て、夜に活動しているのだ。寝ていても全教科0点でも進級できるとのこと。ただし欠課時数、出欠時数は厳しいようなのだ。つまり彼らは出席するために学校に寝にくるというわけだ。油断をすると他の生徒もどんどん寝てしまう。教室にはごみがたくさん落ちている。教科書は半分くらいの生徒が持ってこない。筆記用具さえ持っていない生徒が何人もいる。喫煙でクラスの半数以上の生徒が指導を受けている。・・・このクラス、半端な覚悟では授業はできない。
このあいだこのクラスで別の教科の授業中に殴り合いのけんかが起き、そのことで学校に呼ばれた生徒の保護者が長時間に渡って職員室で学校の批判を大声で話していた。担任は女性の英語の先生でとても悩んでいる。
殴り合いのけんかは別のクラスでもあり、ある時キム先生と授業に行くとクラスがいつもと違って異様な雰囲気になっている。床に血が流れていて瞼がひどく腫れた生徒がいたのでけんかがあったことが分かった。些細な言い合いから殴り合いまでいってしまったようだ。まぁでも日本の工業高校に勤めている時にもケンカはよくあったから同じようなものだ。
日本語の授業ではいつも穏やかで優しいイ先生もこのクラスでは厳しい表情になっている。私はこのクラスで自分に何ができるんだろうと考えてみた。そして決めた。「どんな状況になっても全員の生徒に温かく笑顔で接すること。」「一時間の授業時間内に全員の生徒とコミュニケーションをとること。」「どれだけ起こしても起きない生徒にも肩に手を置き語り掛けること。」今これを実行している。
ある時授業中、このクラスの生徒同士がけんかになりそうになったことがあった。二人の間に入り二人の肩に手を置き笑顔で「大丈夫?」と韓国語で語りかけながら暫らくそばにいると生徒たちの高ぶりもおさまった。
そして会話練習では一人一人隣に行って全ての生徒に行っている。一言でも言えた生徒には必ず褒めることにしている。イ先生もいつからか私と一緒に生徒の中に入り個人個人とコミュニケーションをとり会話練習をされるようになった。少しずつだが変化は現れている。発話練習でも声が大きくなってきた。道で会っても挨拶する生徒が増えてきた。自分の決めたことを信じて続けていこうと心に決めた。
だが、 教員として情けないのだが、このクラスの授業が終わるとふらふらになっている自分がいる。職員室の自分の机にもどるとぐったりしてしまい、暫らく何もできないでいる。
そんな時ふと仲間のことを思う。今この瞬間にも、日本、ドイツ、オーストラリア、ニュージーランドで頑張っている自分の仲間がいる。仲間達も異国の地で教壇に立っているのだ。
みんなのことをしばらく思う。そうすると何故か体の底からほんの僅かだが充実感が湧き上がってくるので不思議である。