始まり

　今から2ヶ月ほど前、全ては始まった。 　

　まず講堂のようなところに全職員が集まって職員会議。その時自分の紹介をされ、マイクを渡された。50人くらいの先生の前で韓国語で挨拶した。途中、頭が真っ白になってしまった。完全に言うべきことを忘れてしまった。こういう時は笑うしかない。どの先生方も笑顔でこちらの次の言葉を待ってくれた。この学校の温かい雰囲気が伝わってきた。

教員の前だけの挨拶のはずが、急遽全校生徒を体育館に集めることになり、そこで挨拶をすることになった。体育館に入ると生徒教員合わせて900人以上がこちらを注目している。 校長先生が私を紹介すると何故か生徒からウォーイェーオウオウオウと歓声があがった。いったい校長先生はどんなふうに自分のことを紹介してくれたのだろう。

「こんにちは、はじめまして。みなさんに会えてうれしく思っています。私は～ケンといいます。日本から来ました。まだ韓国語はうまく話せませんが、みなさんと楽しく日本語を勉強したいと思っています。がんばりますのでよろしくお願いします。」と韓国語で挨拶した。よくわからないが生徒はまたウォーギャオーと声をあげ拍手をくれた。・・・工業高校の生徒はやっぱりいい。

その後、運動や勉強でこの夏活躍した生徒が名指しされその場で立たされ、そしてみんなで盛大に拍手をするということが繰り返された。 背が高く肩幅が広くがっちりしていて眼光が鋭い校長先生がマイクを持ちロックンローラーのようにシャウトし独特な節回しの言葉で会場を盛り上げていく。体育館はまるでコンサート会場のように活気があった。こんなに盛り上がりのある全校集会は初めてである。

だが最後、校長先生がいくら呼びかけても立たない生徒がいる。「～をした3人組立ちなさい!」ということを校長先生が繰り返し叫ぶ。それでも誰も立とうとしない。何故か生徒たちがまたオイオイオイオイと盛り上がっている。格闘家のような体格の校長先生がふたたびシャウトする。しばらくして3人組が立つ。他の生徒たちはまたウォーヘイヘイと声をあげて盛り上がる。たぶんこの3人組は夏休みに何か悪さをしたのだろうと私は思った。何故なら3人組はひどくうなだれていたからだ。ところがキム先生によると「川で溺れていた人を3人で協力して助けた。」とのこと。・・・ 工業高校の生徒はやっぱりいい。

　その後頭髪検査。夏休み明けだからだろう髪を染めている生徒が多い。たくさんの生徒が舞台に立たされていく。日本と同じだ。私は「どこも同じなんだなぁ～」とうれしくなりニヤニヤしながら眺めていると教務部長の先生があまりこの場面を私に見せたくなかったようで、こちらを申し訳なさそうに見つめながら「 職員室へ戻ってください。」と言われてしまった。・・・こういうところを見せたくないのもどこも同じである。

 そしてこの日から全てが始まったのだ。