2012年2月15日水曜日

旅と病

この4日ほど発熱し、寝込んでいた。体温計を持っていないので正確にはわからないが、自分の経験からかなり高かったように思う。
体の痛みも激しく、ずっと布団の中でのたうち回っていた。体が一瞬たりとも止まらない。痛みを和らげるためかどうかわからないが、勝手にひっきりなしに動く。
病院や薬局に行こうなんて気力は全く湧いてこず、布団の中で唸っていた。それでも何か食べないとよくないと思い、インスタントラーメンを作り、体に無理矢理入れた。
3日めに少し熱が下がったので食材を買い出しに行った。野菜、果物、ヨーグルト、飲料水などを買った。果物というのはどんなに体調の悪いときでも、食欲が湧かないときでも、なんとか体の中に入ってくれる。ありがたい。個人的に神の食べ物だと思っている。ただこの買い出しの時にまた体を冷やしてしまい、夜になりどんどんと熱があがった。
あとは布団の中でのたうち回るだけ。


私は体があまり強い方ではないので、よく風邪をひいたり、腹痛を起こしたり、インフルエンザに罹ったりする。
その際、熱が高くなるとよく見る夢がある。
私がたった一人で宮殿や寺、神社などを建てる夢なのだ。どれも小さなものなのだが、なかなか完成しない。何故かというと足で作っているからだ。何故か手を使わず、私は必死になって足でそれらの建造物を作っている。尻を地面につけ両手で体を支え、足を宙に浮かせるという無理な姿勢で作り続ける。
ところが完成が近くなると必ずトラブルが起こる。私が全ての思いを注ぎ込んで足で作り上げた建造物。それが轟音とともに崩れ去るのだ。私は呆然となる。だが夢の中の私はまた作り始める。あきらめずこつこつと足で作っていく。作っては崩れ、作っては崩れ・・・。
目覚めた時には、ふらふらで汗まみれになっている。


旅先では今までいろいろなトラブルに巻き込まれてきた。だがやはり病気になることが一番怖い。
タイの北の都チェンマイのさらに北にチェンライという街がある。そこに滞在している時に突然高熱に襲われ動けなくなってしまった。激しい下痢と体中の痛みにも襲われ、安宿のベッドとトイレをずっと往復していた。大量の汗をかき、体がどんどん衰弱していくのがわかる。耳が聞こえにくくなり、意識も朦朧としてくる。
何か体に入れなければと思い、宿から出る。すぐ左手に屋台がある。バミーナーム(タイ式ラーメン)の屋台だ。ここのバミーナームは食欲がなくても食べられる。それほど美味いのだ。あとはンゴという果物を同じく屋台で買い、宿のベッドで寝転びながら囓っていた。ンゴはライチに似ていてとてもジューシーで高熱でも食べられる。だから今でも私はンゴには感謝している。
それでも熱はなかなかとれなかった。体調不良だと今度はだんだんとメンタルがやられてくる。日本から遠く離れたこの薄暗い部屋のベッドの上で、俺はどうなってしまうのだろう。そんなことを思ったりするようになる。
一向に熱が下がらず、体重がどんどん減っていくので、これはやばいぞと思う。地図を広げ、病院を探す。宿の近くにある。這うようにして行ってみる。
受付の女性も看護婦も全く英語が通じない。幸いにもドクターは英語が話せたので自分のめちゃくちゃな英語で現状を説明する。
ドクターは黒縁眼鏡をかけ、ひげを生やしたとても温厚そうな人で、久しぶりに安心感を覚えた。採血されたあと、口の中や目、鼻、耳の中、あとは上半身のあらゆるところを丁寧に調べてくれて、カルテに何事か書き込んでいる。そしてドクターは微笑みながらこう言った。「メイビー、マラリア。」・・・「マラリア」という言葉を微笑みと共につぶやくドクター。それに何故「メイビー(たぶん)」なんだ・・・。私はこのドクターがいっぺんに好きになってしまった。
この病院を訪れる前、私は「日本は遠い、俺はどうなる。」などとかなり深刻に悩んでいた。それに恥ずかしい話だが、この地をかつて治めたチェンライ王像にも「体が治りますように。」とお参りしたりしたのだ。それなのにこのドクターは「おー日本から来たの。で?熱があるのか。ふーん、なるほど。ふふふふ。それで?おーおー、体も痛いか、ふふふふ。そうか、そうか、そんなに痛いか。じゃあ血を見てやろう。ん?あ~こりゃマラリアだなぁ~。ん、たぶんね~。よく分からないけど、たぶんマラリアじゃないかな~。そう、苦しいのか?ふふふふ。もうちょっと続くよ~。ふふふふふふふ。」という感じなのだ。
私はなんだか笑えてきてしまった。ドクターは私に注射をし、何日分かの薬を渡してくれた。その薬を飲みながら安静にしているうちに体は元に戻った。気持ちの方はあのドクターに出会った時点で治ってしまっていた。


私はチェンライに来る前にタイのジャングルに一週間ほど入った。だが、出会った旅人からの情報でジャングルはマラリアに罹る恐れがあるからということを聞き、バンコクでマラリア予防のタブレットを購入して定期的に飲み続けていたのだ。あの発熱は、本当にマラリアだったんだろうか?私はあのドクターのことがとても好きだし、感謝している。だが医者にはやっぱり「メイビー(たぶん)」という言葉は使わないでほしいものである。

 今回こんな「病」について記してみたのはちょっとした想いがある。
 健康は本当に大切である。健康であるからいろいろなことができる。だが「病」を「負の面」だけで捉えることだけはするまいと思っている。病んだ時だからこそ見えてくることや経験できることもある。それに、普段考えることを避けているようなことにも想いを馳せる機会を得る。例えばそれは「生まれたからには、死ななくてはならない。」ということであったり、「あと自分の持ち時間はどのくらいなのだろう、で、何をする?」などということである。病に冒されているときの方が大切な物の輪郭をはっきりさせるようにも思う。


  今、久しぶりに近くを流れる川を見に行ってきた。気持ちが洗われた。川沿いをゆっくりと歩いてみた。
 足が喜んでいる。建造物を作るよりもこうやってのんびりと歩く方がやっぱり足にとっても心地よいようだ。
 だが、膝が笑っている。まだ完全復活とはいかないようである。

4 件のコメント:

tomy さんのコメント...

もう大丈夫そうですか?
インフルエンザだったのでは・・・???

メイビー・マラリア、笑ってしまいました。
韓国の病院はまだ体験していませんか?
(体験する必要がないのが一番ですが)

熱が出たときに見るのは、
何故かコンクリートの壁みたいなものを食べてしまって、お腹は大丈夫かなあ・・・
って思う夢です。
子どもの頃から同じ夢です。

ドイツの人は冬でも空気の入れ替えが大好きなので、風邪の予防には良い気がします。
さらに人前でも気にせず鼻をかめるし、風邪の治りも早いんじゃないかなあと、勝手に思っています。

水分とビタミン(果物は最適ですね)を摂取して、しっかり治してくださいね!

健父 さんのコメント...

そうですね。たぶんインフルエンザだったと思います。

春休みに入ったということで気が抜けてしまったところをやられました。

モリさんのコンクリートの壁を食べる夢というのもなかなかハードですねぇ~。だけどやっぱり「食べる」夢を見るところがモリさんらしいですね。

私の方は体がまだふわふわしておりますので、しっかり食べてゆっくり寝ようと思っております。

末っ子 さんのコメント...

大変でしたね!
ただでさえ病気のときは辛いのに、それが外国となると、よけい不安ですよね。
少しよくなったみたいで安心しました。
無理せずしっかり治してください!

私は見た目通り?体は丈夫な方で、インフルエンザになったことがないのが自慢でもあります!
こちらでも手洗い・うがいに気をつけて過ごしています。
でも、ちょっと不安なことがあるとすぐお腹を壊してしまうので、精神的にまだまだ弱いなぁと思っています。

健父の器が大きいのは、やっぱりいろんな経験をされてきたからなんですね。
病気を前向きに捉えられるところもスゴイな。
旅のお話を読むのがいつも楽しみです☆

ところで、やっぱり誰にでも子どもの頃から見ている夢があるのですね。
私の場合は、なぜか家の庭に虎が入ってくる夢と、噛み合わせが悪くて歯が抜ける夢を見ます。
きっと何か意味があるのでしょうね。
ちょっと夢占いに興味があります。

健父 さんのコメント...

インフルエンザに罹ったことが無いとは・・・。ホリオさん、やっぱり体丈夫ですね。
私は10年ほど前まではタバコをかなり吸っていって、その頃は必ず毎年インフルエンザに罹っていました。

今回体調を崩したために、カン先生とのチリ山登山ができなくなりました。ちくしょう。やっぱり健康第一ですね。

歯が抜ける夢は私もよく見ますよ。あまりにもリアルなので起きた後確かめたりもします。

虎の夢というのは吉夢でしょう。
竜や虎は英雄を表すんだから。それはすごい。

うーむ。私のように足で建造物を必死に建てていたり、モリさんのようにコンクリートを食べたりするような夢とはレベルが違いますな。

虎の夢とは・・・おそるべし・・・。